月刊島民ナカノシマ大学

セミナーレポート

第5回 2010年2月講座

「謎解き!? 浮世絵『浪花百景』を見よ」

2月講座

幕末の大坂の風景を3人の浮世絵師が描いた『浪花百景』。その絵から何が読み取れるか、ネタ元はどこにあるのか、何ゆえこの構図となったのか…。ナ カノシマ大学2月講座はより深く浮世絵を「読む」ための謎解きがテーマとなった。講師は上方美術史のエキスパートである大阪大学総合学術博物館教授の橋爪 節也氏。大坂の歴史・風俗に関する知識と綿密な史料調査を基本にしながら、奔放に推理と想像を広げる橋爪先生の“浮世絵探偵”ぶりは圧巻だった。

150年前のベストセラー浮世絵『浪花百景』とは?

『浪花百景』は、一珠斎国員、一養斎芳瀧、南粋亭芳雪の合作による100枚組の錦絵(浮世絵の多色刷り木版画)。安政年間に北浜の版元から出版され た。その少し前に盛んに出された各地の名所図会をタネ本に、絵の一部をクローズアップしたり、アングルを少し変えたりした作品も多く、ネタ元を探し当てて 見比べると、作者の意図が見えてくるのではないか、というのが橋爪先生の狙い。

例えば、国員の「堂じま米市」。押し合いへし合いしている群集の足元、それを少し離れた位置から眺める人たちの後ろ姿が描かれている。橋爪先生は、 ネタ元を『米穀売買出世車』に描かれた競りの風景と特定。「足の群集は競りに熱中する人たち。地面にあるキセルは、熱中し過ぎて落としたんでしょう。離れ て見ている人が肩をはだけてヨレヨレなのは、人の輪にもみくちゃにされて、ちょっと休んどるんでしょうな」と読んだ。さらに、「描かれていない部分では、 市の終了を知らせる水がまかれていたかもしれないし、それに構わず突っ込んで行くやつもいたでしょう」と想像は広がる。

歴史知識と美術的解釈が自由な「謎解き」を生む。

こんな調子で、「大江橋よりなべ島風景」「八軒家の夕景」「天神祭景」「川口雑喉場つきじ」など、シマにゆかりの百景が次々と読み解かれていくう ち、当時の大坂・中之島界隈の暮らしぶりや庶民の遊び、橋や建物の配置が目の前に浮かんでくる。地形や伝統の変遷も然り。八軒家の絵に描かれた中之島は、 先端部分がまだ難波橋にも達していないし、天神祭の船渡御は現在とは反対方向の戎島(川口)へと向かっている。

圧巻は、四天王寺の鳥居の上に唐突に描かれた扇子の謎解き。橋爪先生は、これを「縦横だけの描線だと単調になる構図に動きを持たせる意図だろう」と 見立てる。確かに扇子は斜めに飛んでいて、鳥居の向こうにも斜めに隊列を組む鳥の群れが描き込まれている。試しにその二つを画像処理で消すと、何とも味気 ない絵になった。

歴史知識と美術的解釈、それに自由な推理力を駆使した“浮世絵探偵”の鮮やかさを見せつける講座だった。

パネリスト
橋爪節也
橋爪節也
大阪大学総合学術博物館教授。専門は日本美術史。特に近世から近代にかけての上方の美術全般に精通する。大阪市立近代美術館(仮称)建設準備室主任学芸員 を経て、2008年より現職。1958年大阪生まれ。著書に『モダン心斎橋コレクション−メトロポリスの時代と記憶』(国書刊行会)、『モダン道頓堀探検 -大正、昭和初期の大大阪を歩く』『大大阪イメージ−増殖するマンモス/モダン都市の幻像』(共に創元社・共著)などがある。大阪大学総合学術博物館のサ イトはこちら。 http://www.museum.osaka-u.ac.jp

今月の月刊島民

月刊島民表紙

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いきなりだけど「島民」は今回がラスト。これまでの歴史をふり返りつつ、これからも中之島を楽しむヒントをお教えします!

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