月刊島民ナカノシマ大学

セミナーレポート

第13回 2010年10月講座 連続講座「大阪の歴史をやり直す」1

<街場の学問>「懐徳堂スーパースター列伝!」

ナカノシマ大学1周年を記念して始まった新シリーズ「大阪の歴史をやり直す」。おなじみ釈徹宗先生をナビゲーターに、さまざまな分野の専門家を迎える。その第1回目となった10月講座のお題は、淀屋橋にあった懐徳堂。本学のモデルとなった大坂の誇る学問所である。ゲストは懐徳堂研究のエキスパート、湯浅邦弘先生。2人の対話は偉人・奇才たちの業績とエピソードを軸に展開しつつ、大坂の町人学問所ならではの自由な「学びの文化」を明らかにしていった。

懐徳堂はやっぱりすごかった。

まずは湯浅先生が懐徳堂の歩みを概説。当時の図面から再現したCGで「縁のない畳」や「井の字型天井」の空間を疑似体験しながら湯浅先生が説いたのは「学ぶ者の貴賤や貧富を論ぜず」の精神。「町人が町人のために作った学校ですが、ビジネススクールではなく、教養や商道徳を学ぶ場だったのです」。戦後、懐徳堂の膨大な〝遺産〟は中之島にあった大阪大学へ移される。現在も阪大図書館には「懐徳堂文庫」が残り、大学の精神的な源流と位置付けられるほど、重要な存在になっている。

懐徳堂の歴史に名を残す、スターについて語り合う。

では、ここに集ったのはどんな人たちだったのか。釈先生が加わり、懐徳堂の歴史を彩った七賢人、名付けて「懐徳堂セブン」について語り合った。たとえば初代学主の三宅石庵。専門領域にこだわらず、『論語』も商人風に解釈する柔軟性で、自由な気風を築いた。湯浅先生はその背景に商都・大坂の気質を指摘する。「堂島や船場、自由貿易都市の堺。伸び伸びと商業活動を行える土地柄だったからこそ、石庵の特質が活きた。武士文化の江戸、公家文化の京都ではあり得なかった」と。釈先生も「さまざまな学問の良い所を取り入れる学際性と、旺盛な批判・批評の精神。これこそが懐徳堂の特徴だと思う」。


運営や学生指導に手腕を発揮し、最盛期を築いた中井竹山。その弟の中井履軒は人嫌いの変人ながら、古典研究から天文・医学まで膨大な研究を残した。門弟では、釈先生が思い入れる夭折の天才・富永仲基。実証・合理主義の「知の巨人」山片蟠桃…。竹山が学問の精神を書き、門柱に掲げた「連」や、早くから太陽系の概念を取り入れた履軒の天体模型といったお宝も披露しながら、2人の話は、時にマニアックに、時に検証的に、懐徳堂の物語をありありと見せてくれた。「街で学ぶ」ことの愉しさを再認識させられる、まさにナカノシマ大学の原点に立ち返った1周年講座だった。

湯浅邦弘
 
1957年生まれ。2000年4月から大阪大学大学院文学研究科教授。専門は中国哲学、そして懐徳堂の研究。古代中国の処世訓の解説書『菜根譚』(中公新書)のほか、懐徳堂にまつわる著書も多い。
釈 徹宗
1961年大阪府生まれ。大阪府立大学大学院人間文化研究科比較文化専攻博士課程修了。兵庫大学教授。現役の浄土真宗本願寺派の“お坊さん”でありなが ら、仏教や世界の宗教について自在に語る講演・執筆活動、さらには認知症高齢者のためのグループホームも運営するなど活動は多彩。近著に『ゼロからの宗教 の授業』(東京書籍)、『現代霊性論』(内田樹氏との共著/講談社)などがある。ナカノシマ大学にはキックオフセミナー、2010年3月講座、4月講座に もご登場いただいた。

今月の月刊島民

月刊島民表紙

島民 最終号(2021年3月号) 「月刊島民のつくり方」

いきなりだけど「島民」は今回がラスト。これまでの歴史をふり返りつつ、これからも中之島を楽しむヒントをお教えします!

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